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コウノトリが繋いだ 行政と企業と農家の「縁」

コウノトリが繋いだ
行政と企業と農家の「縁」

兵庫県北部に位置する豊岡市は、「コウノトリの町」としても有名だ。コウノトリを絶滅危機から救い出すため、行政と地域が連携し、現在までに200羽を超えるコウノトリを復活させている。この取り組みは『ひょうご豊岡モデル』と呼ばれ多くのメディアからも注目を集め、「昔のようにコウノトリが安全に生活でき、人間と共生できる風景を」と立ち上がった行政が、農家と企業を繋ぎ、盛り上げているのだ。コウノトリが繋いだ縁とは? 行政、企業、農家が連携し育む「これからの稲作」について話を伺った。

青山 直也|NAOYA AOYAMA

1976年、兵庫県生まれ。

「次世代へつなぐ農業」を掲げるユメファームの代表。サラリーマンと農業の二足の草鞋で、父親の稲作を手伝っていたが、父親が他界する前に残した一冊のファイルをきっかけに、2010年から専業農家へ転身。2011年に無農薬栽培に取り組むためと冬に水張りをしたところ、翌春にコウノトリがやってきた。2012年に行われた『第14回 米・食味鑑定コンクール国際大会』では見事特別優秀賞を受賞。さらに2016年『第18回 米・食味鑑定コンクール国際大会』でも金賞を受賞している。

 

野生のコウノトリがくれた、特別優秀賞

父親が農業をしていた時には「コウノトリ」を全く知らなかったという青山さん。農薬を使わずにこの地域の自然を守れるなら……と試しで2011年の秋から始めた1枚の田んぼに、翌年の春、一羽のコウノトリがやってきた。そこから導かれるように今の農法へたどり着いたという。

──青山さんが就農するきっかけを教えてください。

青山 直也さん(以下、青山さん):元々造園業の仕事をするサラリーマンでした。当時は、兼業農家として父親の農業を手伝う程度だったのですが、その父親がガンになってしまいまして。父親が他界した後も、2年ほど兼業で続けていたんですが、中途半端な状態が嫌になり、2010年から農家一本で行こうと決めました。

──そうだったんですね。お父様からは何か引き継がれたものなどはあったんですか?

青山さん:これは本当にありがたいんですけど、「もう来年にはいない」というのを父はわかっていたんでしょうね。稲作のすべてを記録したファイルを残してくれたんです。「○月○日頃にどの圃場にどのくらい農薬を散布する」とか丁寧に書かれてあって、その通りにやったら本当に美味しいお米ができたんですよ。このファイルのおかげで、基準ができて今では「無農薬をやってみよう」「近隣の田んぼのお手伝いもしよう」と手を広げていくことができました。感謝しています。

  • 作業金額を明確にすることで、作業委託が増えました

  • 2019年J Aたじま指導のもとでGLOBAL G.A.P.をグループ認証

──ドラマのようなお話ですね。現在の事業規模はどれくらいを手掛けているのでしょうか?

青山さん:自分の田んぼは6haほどで、9haほど管理を手伝っている田んぼがあります。ユメファームには正社員とアルバイトもいるので、お米の他にもお盆用の生花を育てたり、直販を行ったり、様々な工夫しながら運営しています。私個人としては、冬の時期は除雪やスキー場の仕事もやっていますよ。豊岡市は観光地なので、冬場に人手が必要になるんですよね。農業のメインシーズンにはしっかり働いて、オフシーズンにも働けるので農家でよかったなと(笑)。

──青山さんと言えば、「コウノトリ米」が米・食味鑑定コンクール国際大会で二度も受賞されていますが、コウノトリ米を始めた背景を教えていただけますか?

青山さん:実は、父親の記録ファイルの中にも「コウノトリ」なんて単語は出てこなかったので知らなかったんですよ(笑)。たまたま行政の方から「コウノトリを放鳥しても野生でエサを食べて共生していけるよう、無農薬でお米を栽培しませんか?」と話を聞いて、自分でできる方法を考えて初めてみようと思いました。

──青山さん流の「コウノトリ米」の栽培の方法とは?

青山さん:「コウノトリ育む農法」では冬や春の田植え前に水を張るところが多いのですが、この豊岡市日高町のあたりでは、雪が降る関係で秋に水を張ることにしています。その時期に「湛水」することで、土に生きる微生物が活性化してコウノトリが喜ぶ土となるのです。

「農薬を使うってどうなんだろう?」と自問していた時期でもあったので、試しにと1枚だけで2011年の秋から無農薬への取り組みをスタートさせたのをきっかけでした。

──その1枚の田んぼに、翌年の春、野生のコウノトリがやってきたんですよね?

青山さん:そうです、そうです。それまでなかなか賞も取れなかったんですけど、2012年のコンクールでは特別優秀賞までいただけて。コウノトリのおかげで私自身もスイッチが入りまして、「有機や無農薬は無理」と言われた食味のコンクールでしたが、2016年には完全無農薬米で金賞もいただけました。小さな村だから、自分の田に水を引き入れることだけでも一苦労だったり、草取りで心が折れそうになったりしますが(笑)、地域全体で取り組んでいくことで、米づくりに対する意識も変わったと思います。きっかけはコウノトリでしたが、「美味しいお米を作りたい」というのは全国の農家の願い。そのために取り組んだ結果が賞に繋がったと思っています。

 

行政、JAとも連携し、地域全体で稲作の活性化を

豊岡市は、行政・JAたじま・農家の三者が連携した取り組みが特徴的だ。その中心にはいつもコウノトリがいる。今回は青山さんとも関わりが深い、JAたじまの塩見真仁さん、さらに豊岡市農林水産課の山本大紀さんにお越しいただき、豊岡市の取り組みについてお伺いした。

──今回はJAたじまさんと、豊岡市の農林水産課の方にもお越し頂きました。ここからは青山さん含め3名の皆さんにお話をお伺いします。ではまず、豊岡市ではいつからこの「コウノトリ」の取り組みがスタートしたのでしょうか?

豊岡市農林水産課 山本大紀さん(以下、山本さん):「コウノトリ育む農法」は、2003年にわずか0.7ha・数名での栽培からスタートしました。2006年にはJAたじまが生産部会を設立して栽培と流通が本格化し、今では400haを超えるまでに広がっています。このプロジェクトの本当のきっかけで言うと、2000年頃から「豊岡市のコウノトリをなんとかして次の世代に伝えていかなければ!」という使命感を持ったアツい職員がいたんだと思います。その熱に吸い寄せられるように徐々にメンバーが集まってきて、自発的に始まった。行政が押し付けた訳ではないんです。

昔は「苗を踏む害鳥だ」なんて言われていましたが、農薬散布によってコウノトリの食べ物がなくなり、生態系のバランスが崩れたことがコウノトリが減少した最大の要因です。まだ野生復帰は道半ばですが、「後世にもこの豊岡の景色を残したい」「コウノトリと人が共に暮らせる町にしたい」という熱意がこのプロジェクトをスタートさせました。

豊岡市農林水産課 山本大紀さん

──なるほど。政策ありきと言うことではなく、自発的に始まった取り組みだったんですね。JAたじまさんは、どのような関わり合いを持たれていらっしゃいますか?

JAたじま塩見真仁さん(以下、塩見さん):私たちは、生産者のみなさんに貢献することが大きな役割のひとつです。また地域の農業を活性化して行きながら、次世代に農業を繋いでいくこともミッションのひとつです。他の地域とJAの関係を聞くとあまりいい関わり合いをできてないところもあるようなのですが(笑)、私たちは地域の個性を生かした取り組みに力を入れています。コシヒカリを20種類以上に分類して販売しているんですよ。「たじまのこしひかり」のように一色担にせず、コウノトリのプロジェクトで関わっているもの、減農薬で栽培しているもの、完全無農薬のもの……と、いろんな農法で作られたお米を分類して販売し、消費者へ発信しています。

──かなりの手間がかかりますよね。でも消費者や生産者さんの立場に立つと、個性を生かしてもらえるのはとても嬉しいですね。

塩見さん:ありがとうございます。コウノトリ米を販売していくためにもこれまで300名以上の農家さんとお会いしています。「完全無農薬で育てませんか?」といろんな農家さんに話をしてみましたが、「考えられない」と当時は話すら聞いてもらえなかったんです。でも青山さんが食味の賞を受賞されて、地域の皆さんの気持ちが変わっていくのを目の当たりにしました。そこから僕自身も、地域のため、農家さんのためできることはないか? と気持ちを大きく動かされました。今は、生産者さんが作ってくれたお米をしっかり消費者へ届けるために取り組んでいます。

──コウノトリを中心に、行政がコウノトリとの共生を目指すために地域全体で取り組める施策を考え、青山さんが完全無農薬でお米を育て、JAさんが農家さんの取り組みを全国へ発信するという連携が取れているんですね!

山本さん:一度コウノトリを見ていただいた方はわかると思うんですけど、本当に美しいんですよね。「おらが村のコウノトリ」といった感じで、本当に住民たちがコウノトリに愛着を持って接しています。

青山さん:私自身も「コウノトリ米」を育てていく中で、生き物がお米を作ってくれていると実感するようになりました。昨年GLOBAL G.A.P. グループでの認証も取得し、これからも完全無農薬を増やしていく予定ですが、様々な工夫で作業の効率化を図りながら完全無農薬米の収量も既に420キロくらいまで上がっています。450キロを目指していますが、ここまでできているのもJAさん、行政のみなさん、地域の方々の協力があってこそだと感じています。そして、美味しいお米を作ってくれる生き物たちに感謝ですね。

JAたじま塩見真仁さん

──完全無農薬米を作ることはとても作業はとても大変なことだと思いますが、青山さんが行った業務改善とはどんなことを行ったのですか?

青山さん:完全無農薬米というのはどうしても食味が落ちてしまうと思われがちですが、様々な工夫をすることで美味しいお米ができるのです。①水温をちゃんと管理すること ②ポット苗にすることで苗の根を丈夫にすることが大切 ③田植え前にまずは雑草を生やしてしまってから代掻きをする。④水を張ってから不要な雑草を浮かせて取り除いてから田植えをする。とにかく常に新しいチャレンジをしてきています。

塩見さん:青山さんが成功された事例を生産者さんへお話をいただくことで、同じような改善をして食味も収量も上がっている農家さんがいらっしゃいます。

青山さん:さらに業務改善をすることも大切ですが、昔から新しいことを開発するのがとても好きなんです(笑)

  • ポット苗にすることで、苗を丈夫にしています

  • 田植え前に水を張り、雑草を浮かせて取り除きます

  • 苗づくりは、使っていないスキー駐車場でポット苗を育てる

  • 苗を軽トラに乗せる作業は、かなり効率的です

それぞれが思い描く10年後に向かって

「地域を挙げて」「連携して」と言葉で言えば簡単だが、それを実現し続けていくことは本当に難しい。それぞれが思い描く、10年後の未来には何が映っているのだろうか。

 

──これからの目標について教えてください。

青山さん:個人的なことで言えば、10年後は倉庫当番としてぼんやりしていたいです(笑)。目標というのがすごく難しくて、10年あれば今の倍くらいは自然に規模拡大出来ちゃうと思うんですよね。稲作はどこまでも規模を広げられてしまうので、私としては「楽しさ」を感じられるちょうどいい規模感で稲作を続けていきながら、次の世代へどう引き継いでいくかを考えたいですね。

──お父様が残してくれた記録ファイルを今度は、青山さんから次の世代へと言うことですね。素敵な未来です!

青山さん:父親は手書きでしたが、私の場合はデジタル管理(ZGIシステム)で全ての記録を残しています。元々アナログ人間だったんですけど、これによって段取りも効率化されて、計画も立てやすくなったし、労力が減ったのに収量は増えたんです。私は今44歳ですが、この地域ではまだまだ若手なので(笑)、率先して新しいことにチャレンジしながら、コウノトリと共生できる未来を歩んでいきたいと思います。

──10年後の青山さんにまたお話をお伺いしたいですね。JAさんはいかがですか?

塩見さん:私たちとしては、「変えること」と「変えないこと」を理解した上で、進化していく必要があると考えています。この地域の想いや理念は「変えないこと」ですが、稲作のやり方や情報発信の方法は柔軟に「変えて」いきながら、生産者さんに貢献し、消費者の方に美味しいお米を届けたいと考えています。

──食べてくれる人が増えることが生産者さんにも貢献できますからね! 豊岡市のこれからも教えてください。

山本さん:10年後の未来としては、風景としてコウノトリが真に野生化していることが理想ですね。今、コウノトリの郷公園という施設で飼育しているコウノトリに餌を与えていますが、野生のコウノトリもその餌を頼って横取りに来る場合があって、野生と言いつつ100%自活できていない個体もいるんです。野生で生きるためには、餌を得るための田んぼも畑も川も必要ですし、地域全体で生物多様性を育む環境にしていかなければいけません。今はありがたいことに多くのメディアさんからも注目をいただいていますが、農家さんの高齢化が進んでいるのも現実です。若い世代にどう引き継いでいくかも今後の課題としてあるので、油断せず取り組んでいきたいです。

──コウノトリが真に野生化するためには、どこかひとつが欠けても実現できないと感じました。みなさん共通の目標はあるんでしょうか?

青山さん:これが、ないんですよね(笑)。コツコツと自分たちがやるべきことをやるのみです。でも一つ言えるのは、この豊岡市で農業をしている人の中には「コウノトリ農法がなければ、稲作を辞めていた」という人もいるんです。私も稲作は「作業ばかりで楽しくない」と感じていた時期もあったんですけど、今はとにかく毎日が楽しいんです。楽しんでできることが続けられているコツだと思いますよ。

編集後記

行政と企業と農家は、世間的には対立関係にあってもおかしくない。しかしこの豊岡市はコウノトリを守り育むため、そして次の世代にこの景色を残すため、自然と協力体制が出来上がり、誰もが前向きに取り組んでいた。「コウノトリ」という共通のシンボルが地域を元気にし、農業を育み、人を呼ぶ。とてもシンプルな構造だが、楽しんで取り組む三者の姿を見て地域本来の姿を見たように思った。

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